繰下げ受給はした方がいいの?
繰下げ受給は何歳まで生きることができれば、元がとれるの?
そのような疑問を解決する記事になっております。
結論から言いますと、
原則、老齢年金は繰下げ受給(受給開始を遅ら)すべきです!
です。
繰上げ受給とは、老齢年金を65歳より早めて受給開始する方法で、
繰下げ受給とは、老齢年金を65歳より遅らせて受給開始する方法です。
この記事を読んでいただければ、下記のことがわかります。
・繰下げ受給の4つのメリット
・繰下げ年数に応じた損益分岐年齢
・繰下げ受給しない方が良いケース
・繰下げ受給の申請方法
老齢年金とは
老齢年金とは、公的年金の一部ですので、
まずは公的年金からご説明します。
公的年金(老齢年金)について、だいたい知っているという方は、
下記リンクから、繰下げ受給の説明まで読み飛ばしてください。
繰下げ受給の説明まで読み飛ばす
公的年金の分類
公的年金は、下記表のとおり、
老齢年金/障害年金/遺族年金に分類されます。
国民年金 | 厚生年金 | |
老齢 年金 |
老齢基礎年金 | 老齢厚生年金 |
障害 年金 |
障害基礎年金 | 障害厚生年金 障害手当金 |
遺族 年金 |
遺族基礎年金 寡婦年金 |
遺族厚生年金 |
このうち、繰上げ受給/繰下げ受給に関係してくるのが、
老齢年金(基礎年金・厚生年金)です。
老齢年金とは、老後の生活補填を目的として、
一般的に65歳受け取ることができる年金です。
次に老齢年金(基礎年金・厚生年金)について簡単に説明します。
老齢基礎年金
■年間給付額計算式
約78万×(加入月数/480か月)
20~60歳の間、全て納めていれば、
約78万の基礎年金を受け取ることができます。
老齢厚生年金
厚生年金は、サラリーマンや公務員の場合に限ります。
■年間給付額計算式
平均標準報酬額(今までの賞与を含む平均月額)
×0.005481
×被保険者期間月数(サラリーマン期間)
※平成15年3月以前の加入期間については、
係数が0.005481ではなく、7.125になります
生年月日が
男性:1961/3以前、女性:1966年/3以前の場合、
65歳以前に「特別支給の老齢厚生年金」が受け取れます。
ここで注意すべきことは、
「特別支給の老齢厚生年金」は、繰上げ受給/繰下げ受給の対象外ですので、
通常通りの時期に受給すればよいです。
繰下げ受給とは
前述のとおり、
繰上げ受給とは、老齢年金を65歳より早めて受給開始する方法で、
繰下げ受給とは、老齢年金を65歳より遅らせて受給開始する方法です。
繰上げ/繰下げ受給の増減率
繰上げ受給をすると、繰上げ月数×0.5%分減額されます。
繰下げ受給をすると、繰上げ月数×0.7%分増額されます。
繰上げ/繰下げ受給の可能年齢
繰上げ受給は、最大60歳まで早めること(最大30%減額)ができます。
繰下げ受給は、最大75歳まで遅らすこと(最大84%増額)ができます。
※2022/3までは、繰下げの最大年齢が75歳ではなく、70歳です。
老齢基礎年金(国民年金)と老齢厚生年金を分けて
・繰上げることはできませんが、
・繰下げることはできます
例えば、
基礎年金は65歳から受給開始、
厚生年金は75歳まで繰り下げる、
ということができます。
繰下げ受給待機中の死亡
このように、繰下げ受給待機中に亡くなった場合、
もらえるはずだった年金(未支給年金)は、配偶者が受け取りことができます。
このとき、もらえる金額は、増額された金額ではなく、
65歳から受給していた場合の合計金額です。
また、配偶者がいない場合は、
亡くなった人と生計を同じくしていた①子、②父母、③孫、④祖父母、⑤兄弟姉妹、⑥それ以外の3親等内の親族が受け取ることができます。
(①~⑥は優先順位)
繰下げ受給の損益分岐点(元が取れる年齢)
ただ、繰下げ受給開始後、すぐに亡くなったら受け取り損だよ!
何歳まで生きたら、元が取れるの?
繰下げ受給開始年齢に応じた「元が取れる年数」を示しました。
繰り下げた年数分だけ、公的年金等控除を受けることができなくなりますので、
税金を考慮したものを、右の列に記載しております。
※税金は人によって違いますが、標準報酬月額(今までの平均年収)を300~800万を想定して計算しております
繰下げ 受給開始年齢 |
元をとれる年数 (損益分岐年齢) |
|
税金 考慮なし |
税金 考慮あり |
|
66歳 | 78歳 | 80歳 |
67歳 | 79歳 | 81歳 |
68歳 | 80歳 | 82歳 |
69歳 | 81歳 | 83歳 |
70歳 | 82歳 | 84歳 |
71歳 | 83歳 | 85歳 |
72歳 | 84歳 | 86歳 |
73歳 | 85歳 | 87歳 |
74歳 | 86歳 | 88歳 |
75歳 | 87歳 | 89歳 |
例えば、75歳まで繰り下げた場合の損得は、下記の通りになります。
※税金を考慮したケース
亡くなる歳 | 65歳から受給していた場合と比較した損得 |
65~74歳 | 65歳~亡くなるまでの年金は 配偶者が受け取れるので、 損得なし |
75~88歳 | 損 |
89歳~ | 得 |
「私は89歳まで生きられる自信がない」
という方もいらっしゃるかもしれませんね。
下記表は、生まれた年ごとの50%生存予測年齢になります。
50%生存年齢とは、
50%の人が生きていて、50%の人が亡くなっている年齢のことです。
現在60歳以下の50%生存年齢は、
男性は89歳以上、女性は96歳以上なのです!
誕生年 | 50%生存年齢 | |
男性 | 女性 | |
1995年 | 97.1歳 | 103.7歳 |
1990年 | 96.0歳 | 102.7歳 |
1985年 | 94.9歳 | 101.6歳 |
1980年 | 93.8歳 | 100.6歳 |
1975年 | 92.7歳 | 99.6歳 |
1970年 | 91.6歳 | 98.6歳 |
1965年 | 90.5歳 | 97.5歳 |
1960年 | 89.4歳 | 96.5歳 |
1955年 | 88.3歳 | 95.5歳 |
1950年 | 87.2歳 | 94.5歳 |
出典:後田亨、永田宏 著「いらない保険」19,20ページ
上記のように、
65歳から受給開始する場合よりも、繰下げ受給により得する確率が高いです。
繰下げメリット① 長生きリスクに備えられる
上記説明では、「何歳で元を取れるのか」を焦点にあててきましたが、
他にもメリットがあります。
繰下げメリットの1つ目は、
「長生きリスクに備えられること」です。
長生きすることは良い、というイメージですが、
経済的には大きな負担になります!
年金を積立貯蓄のように考える、
誤った認識の方が多いですが、
年金の役割とは、「長生きしてしまった場合に生活費が足りなくなること」に備えた保険なのです。
繰下げ受給をすることによって、
長生きしないと思っていても、
長生きしてしまった場合に、生活費が足りなくなるリスクを減らしてくれるのです!
「繰上げて後悔するのはこの世、
繰下げて後悔するのはあの世」
という言葉があります。
皆さんは、この世とあの世どっちで後悔したいですか?
繰下げメリット② 老後の必要額が明確になる
繰下げメリットの2つ目は、
「老後の必要額が明確になることで、将来設計しやすいのです」です。
下記グラフは、7年繰下げし、72歳から年金を受け取るイメージを示しています。
58.8%増額になることで、72歳以降の生活費は、全額老齢年金でまかなえていることがわかります。
下記はあくまでイメージですが、
多くの家庭では、70歳過ぎまで繰り下げすることで、全額老齢年金で賄えることができます。
繰下げしない場合は、何歳まで生きるかによって、必要額が大きく異なります。
例えば、70歳で亡くなる場合と、105歳まで生きる場合では全然違いますよね。
一方で、70歳過ぎまで繰下げすれば、
上記のように、多くの夫婦は全額老齢年金で賄えますので、
何歳まで生きるか関係なくなるのです。
つまり、
70歳過ぎまで繰下げすることを前提にすれば、老後の必要額は予測しやすくなり、
受給を開始する(70~75歳)までの生活費と、生活防衛資金/お葬式/お墓代を貯めておけばよいのです。
このように、繰下げ受給することにより、老後の将来設計がしやすくなります。
70歳過ぎまで繰下げするための資金確保
「70歳過ぎも繰下げ受給するほどの貯金/退職金がないよ」
と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
読者の方が、50歳以下であれば、インデックス投資をすることをおすすめします。
インデックス投資を学ぶ
※リスクを下げた投資を行うためには、長期投資が重要ですので、使用するまでに長い期間を設けることができない50歳以上の方には、投資はオススメしません。
繰下げメリット③ 貯蓄の取り崩しストレスが減る
繰下げメリットの3つ目は、
「貯蓄の取り崩しストレスが減ること」です。
■繰下げしない場合
繰下げしない場合、取り崩しながら生活していくことになります。
何歳まで生きるかわかりませんので、取り崩すたびに不安でストレスになります。
取り崩しすることが怖く、取り崩しできないまま、亡くなる人も多いのです。
■繰下げする場合
70~75歳まで繰下げする場合は、多くの夫婦は、
繰下げ受給後、老齢年金のみで生活していけますので、
繰下げ開始までに、生活防衛資金/お葬式/お墓代を除いて、全て使ってしまってよいのです。
上記のように、繰下げ受給すれば、
取り崩しストレスが少なく、安らかな老後を送ることができるのです。
繰下げメリット④ 詐欺被害のリスクが小さくなる
繰下げメリットの4つ目は、
「繰下げ受給後に詐欺被害にあった場合、被害額が小さく済むこと」です。
高齢になればなるほど、思考力が低下します。
下記グラフは、年齢別の特殊詐欺件数割合を示しています。
70歳以上の割合が、78.9%もあるのです。
つまり、高齢になって高額の貯蓄があることは、ある意味リスクでもあるのです。
引用:SHARP
そこで、繰下げ受給をすると、下記メリットがあります。
①貯蓄が少なくなった繰下げ受給後に、詐欺被害にあっても被害額は小さくて済む
②繰下げ受給により年金が増額しているので、生活に与えるダメージは少ない
繰下げ受給をしないほうがよいケース
繰下げ受給しないほうがよいケースはないの?
繰下げ受給をしない方がよい“可能性がある”ケースは、下記2パターンです。
パターンⅠ.夫よりも年下の専業主婦(厚生年金のみ)
パターンⅡ.5つ以上離れた年下の妻をもつ夫(厚生年金のみ)です。
※基礎年金はすべての人に、繰下げ受給を推奨します。
あくまで、”可能性がある”だけで、詳細条件は人により異なりますので、
上記パターンに該当するは、お近くの年金事務所に相談していただくことをオススメします。
近くの年金事務所をさがす
パターンⅠ.夫よりも年下の専業主婦(厚生年金のみ)
突然ですが、配偶者死亡後、
厚生年金は、下記のうち受給額の大きい方を選ぶことになります。
①本人の老齢厚生年金
②死亡者(配偶者)の遺族厚生年金
※厳密に言えば、併給されて調整されますが、受給額は選ぶ場合とほとんど変わりません。
死亡者の遺族厚生年金は、死亡者の老齢厚生年金額の3/4倍です。
これは、言い換えると、
「①本人の生涯所得金額」が、
配偶者(死亡者)の生涯所得金額の3/4を超えていなければ、
「②死亡者(配偶者)の遺族厚生年金」を選択することになります。
また、「②死亡者(配偶者)の遺族厚生年金」は、
配偶者が繰下げ受給していた場合でも、増額の対象になりません。
そのため、せっかく「①本人の老齢厚生年金」を繰下げし、受給額を増額させても、
配偶者死亡後に、「②死亡者(配偶者)の遺族厚生年金」の方が受給額が多いと、
繰下げ受給していた意味がなくなります。
上記のことが、配偶者と比べて年下であればあるほど、
配偶者が亡くなる(繰下げ受給による増額が無駄になる)タイミングが早い
可能性が高くなります。
パターンⅡ. 5つ以上離れた年下の妻をもつ方(厚生年金のみ)
配偶者が年下の場合、
繰下げ受給期間中の加給年金がもらえなくなってしまうからです。
加給年金とは、厚生年金の制度の一部で、
被保険者期間が20年以上ある人が65歳になった時点で、
65歳未満の妻を養っている場合、妻が65歳になるまで厚生年金に加算して
支払われるお金(年額22.45万+加算額)のことです。
年の差があればあるほど、繰下げ受給により加給年金がもらえなくなる年数が増えます。
例えば、妻の方が5歳年下の夫婦を想定しましょう。
加給年金をもらえなくなることを考慮すると、
損益分岐年齢(目安)が下記の通りになります。
70歳まで繰下げ:84歳→87歳
75歳まで繰下げ:89歳→90歳
※詳細条件(標準報酬月額など)で変動しますので、あくまで目安です。
このパターンⅡは、念のためご紹介しましたが、損益分岐年齢が少し遅れる程度ですので、
気にせず繰下げ受給してしまっても良いです!
繰下げ受給の申請方法
繰下げ受給をするためには、申請が必要です。
支給開始年齢に到達する約3ヶ月前に、
年金の請求手続きの案内が日本年金機構から送られてきます。
その際、下記書類を年金事務所に提出します。
<提出/持参するもの>
・国民年金・厚生年金保険老齢給付年金請求書
・老齢基礎・厚生年金支給繰下げ申出書
・年金証書
・戸籍標本
・扶養する家族があれば所得証明書、非課税証明書
まとめ
いかがでしょうか?
繰下げ受給について、知識が深まりましたでしょうか。
結論は、
原則、老齢年金は繰下げ受給(受給開始を遅ら)せた方が良いです!
です。
税金を考慮した繰下げ受給の損益分岐点は、
70歳まで繰下げ:84歳(目安)
75歳まで繰下げ:89歳(目安)
繰下げ受給のメリットは、下記のとおりです。
①長生きリスクに備えられる
②老後の必要額が明確になるため、将来設計しやすい
③貯蓄の取り崩しストレスが減る
④詐欺被害のリスクが減る
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